広告代理店の衰退、異業種の参入…「広告ビジネス」次の10年はこうなる

広告業界史上、最大の転換期。もう時間はない。生き残るためのヒントがここにある。
まとめる書籍

広告ビジネス次の10年
広告ビジネス次の10年
著者:横山隆治 (翔泳社)
広告マンの8割はいらない!次世代型人材に必要なスキルとは?IT・コンサル系の参入加速、今後10年の業界シェア予想。


広告ビジネスに「デジタル化」が起こすパラダイムシフト

markezine.jp

広告業界は今、大きな転換期に入ってるといいます。その要因として、第一の波は「デジタル化」。この5年ほどでデジタル化に伴って起きた「大きなパラダイムシフト」がビジネスモデルそのものを揺るがしています。

広告業界が100年近く生業としてきた「広告の手売り販売」。しかし、デジタル化の影響で広告代理店が「手売りする」というスタイルに変化が生じているといいます。

それは、デジタル化の流れより、実装可能となった「入札」というプラットフォームが広告業界へ浸透してきたこと。つまり、買い手の論理で「広告」を買う仕組みが登場したことです。

奇しくも「デマンドサイドプラットフォーム」や「リアルタイムビッティング」という仕組みは、リーマン・ショックで解雇された金融工学のエンジニアが作ったもの。つまり株式市場における「オンライントレーディング」と同じ理屈でできています。

証券会社の世界では、営業マンが売っていた株式は「買い手がオンラインで直接売り買い」できるようになり、証券会社の営業マンがこの15年間でほぼ半減したといいます。

広告業界は今、「売り手の論理」から「買い手の買付論理」への変化、そして広告代理店営業マンの「手売り」からオンラインを介した「入札運用」、さらにはアメリカではそれらを広告主が自社内で行うという流れとなっているようです。


広告ビジネス「グローバル化」による大変革の波

wsj.com

さらに、大変革の第二の波は「グローバル化」にあると著者はいいます。グローバル化とデジタル化とは表裏一体で、分かりやすい例でいうと、「アプリを一個開発すれば世界中で売れる」ということ。

日本は常にガラパゴス状態を保っていたが、ついに動かざるをえない条件が揃ってきたといいます。その要注目が、電通が約4000億円を投じて、イギリスの大手広告代理店の「イージス買収」。この電通の動きは、WPPグループ(ロンドンに本社をおく世界最大の広告代理店)のデジタル・グローバルに対する近年の取り組みや、グーグルやフェイスブックなどのデジタル・グローバルの事業領域を意識しており、P&Gやユニリーバなどのグローバル企業の要求に応える改革。

これまで日本の広告代理店のビジネス領域はGDP世界3位を有する日本市場だけで十分でした。そのため、「日本進出」をしようとする外資系広告代理店に対し、メディアと協力し、参入障壁を高くし「効率の悪い市場」「成長しない市場」のイメージを植えつけていました。その影響で、グローバル企業の外資系広告代理店はシンガポール、上海などの拠点をアジアのハブとしたそうです。この結果、「国内の利権を守る=グローバルサービスが届かない=クビを締める」という構図に陥っています。

一方、近年は防衛的な動きとして、「広告主側が自社内で広告代理店機能を持つ取り組み」も加速している様子。また、テクノロジーを主体とするアドテクノロジー企業は軽く国境を越えて日本進出の機会を窺っています。

このように日本市場で、デジタル化、グローバル化の波が加速する中「最大で待ったなし」のチャンスが到来しているそうです。日本の広告代理店は、日本での生き残りという小さな視点ではなく、デジタルの可能性をベースとしグローバルな発想でビジネスを拡大することが急務だといいます。


売上の9割を「日本だけ」で稼ぐ限界

ホンビュー編集部

日本の広告代理店の「海外進出」とは、日本国内の広告主の「海外進出を支援する」というケースが多く、その発想での「グローバル展開」にて儲けに貢献できているか、というと難しいといいます。

いったい、「グローバル展開」はどういう状況になっているのでしょう。博報堂DYを例に、業績資料を紐解いてみます。
参照:博報堂DYホールディングス「マニュアルレポート」2007年3月期〜2013年3月期

上の図をご覧ください。一目瞭然ですが、海外売上はグループ連結売上合計内のたったの3%。しかも、この7年間大きな伸びを見せていません。

日本の大手広告代理店「電通、博報堂、アサツーディ・ケイ」の中で唯一、海外比率を伸ばしているのは電通のみ。2007年売上の海外比率は9.9%であるのに対し、2013年は14.2%と上昇しています。これは先ほどの「イージス買収」数字を含んでいない数字。

ちなみに、アサツーディ・ケイは、2007年売上の海外比率は7.2%であるのに対し、2012年は7.8%です。

このように、グローバル化が加速する業界では、売上の9割を国内に依存している状態は大きなリスクをはらんでいます。


広告ビジネスの未来予想図「次の10年で起こる業界構造変化」

fastcompany.com

本書では、これからの10年で起こる構造変化を著者が予測しています。その中から3点まとめます。

1.電博以外の総合広告代理店の衰退
電博以外の総合広告代理店はさらに苦しくなる。電通はグローバル化を急速に進めているので日系広告代理店の中では一人勝ちするが、国内市場だけを見れば博報堂は強敵。特にテクノロジーに強い「デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム」を傘下に持つ博報堂も強い。

2.IT、コンサルティング系企業の異業種参入
企業におけるデータマネジメントプラットフォーム(DMP)の導入は、マーケティングの根幹に関わる出来事。だからこそ、広告代理店も企業へのデータマネジメントプラットフォーム導入に必死になっている。というのも、本格的なマネジメントプラットフォーム導入においては、顧客データベースが格納されている企業のCRMシステムや基幹システムなどと接続しないと意味がない。いわゆる情報システム部の領域。

これらの動きを察知し各システムインテグレーターも、情報システム部門からマーケティング部門への領土拡大を虎視眈々と狙っている。こうした業態は、アクセンチュアのようなシステムコンサルティング系やIBM、富士通のようなシステムインテグレーター系などから別会社が設立され、マーケティング領域に進出してくると予想。

3.黒船たちが再進出
「枠もの手売り」モデルから、デマンドサイドプラットフォームを活用しオーディエンスデータにもとづいた広告配信という新たな仕組みの登場を機に、外資系広告代理店は再参入を図ってくる。

グーグル、フェイスブック、アマゾンなどのグローバル企業内の人材がスピンアウトして広告代理店的な立ち位置でのコンサルティングサービスを提供することも考えられる。

また、IBM、アクシオム、ワンダーマンなどのデータ領域を得意とする企業の躍進や、グローバル企業が採用しているデータマネジメントプラットフォーム提供会社が広告主とともに日本へ上陸するパターンも考えられる。


広告業界のみならず、他業界の方が読んでも分かりやすく、読み応えのある内容です。私たちの生活に密着している「広告」の今後を知ることが、これからの世の中の流れを掴むヒントになるかもしれません。




紹介した書籍

広告ビジネス次の10年
広告ビジネス次の10年
著者:横山隆治 (翔泳社)

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   Kindle版あり

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