なぜ関西のローカル大学「近大」が、志願者数日本一になったのか
2014年度に実施された私立大学の一般入試では、近大に集まった志願者数が「10万5890人に達した」といいます。前年まで4年連続1位だった明治大学より志願数を378名多く集め、近大は「全国1位」になりました。
はたして、なぜ近大の志願者数は日本一になったのでしょうか?その理由を大きく4つにまとめましたので、紹介していきます。
著者:山下 柚実 (光文社)
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志願者数日本一の理由その1.女子の感性にアピール
近畿大学のオープンキャンパスは毎年7月から始まり、多くの高校生が来校します。
2014年度のオープンキャンパス参加者数は西日本1位。
オープンキャンパスのWEBサイトのデザインは洗練されていて、まるで音楽フェスの特設サイトのようです。
オープンキャンパスでは様々なイベントが用意されており、中でも注目なのが「近大マグロの試食会」。世界初の完全養殖クロマグロ「近大マグロ」をアピールすると共に、近大の研究成果の紹介も行うイベントを開催します。
また、Facebook、Twitter、LINEなどのSNSを積極的に活用し、オープンキャンパスの来場を促すだけではなく、その後の「出願」のお知らせにも使用します。
そして、オープンキャンパスに来校する女子高生にアピールする最大のポイントは「女子トイレ」なんだそうです。美しく磨かれた鏡が、ずらりと壁面を覆い、間接照明が照らし出す、オシャレなパウダールーム。女子トイレの広さはなんと、隣の男子トイレの倍。
近大は「きれいな校舎」「IT施設の充実ぶり」もさることながら、「トイレの設計思想」は百貨店かショッピングモール以上かもしれません。
この背景には、過去の「近畿大学のイメージ」を変えたいという思いが込められているそうです。
地元の人に聞く近畿大学のイメージというと「赤井英和出身のボクシング校」「バンカラ校」。
そんな過去の「男臭い」イメージを変え、「女子を受け入れたい」という大学の意気込みや理念がトイレに注ぎ込まれているそうです。
志願者数日本一の理由その2.受験料の割引戦略
「近大には願書請求しないでください」
「カミだのみの受験はもうやめだ」
JR大阪駅等の鉄道構内に貼られたユニークなポスター。
近大の宣伝ポスターの前で、立ち止まってスマホで撮り、友達に共有する若者たち。
この面白さがウケて、SNSでポスターの情報が拡散していく・・・
このポスターとは「インターネット出願」に切り替えることを大々的に宣言する「エコ出願」の広告です。
大学入試のネット出願自体は、今に始まったことではありません。すでに複数の大学がインターネットを利用した出願制度を導入しています。
しかし、近大は全国で始めて「100%完全ネット出願」を実行した大学です。
伝統校は前例を守る傾向がどうしても強くなる。それが伝統校の証でもある。だからこそ、なかなか変わることができない・・・。
一方、近大は伝統校ではないので「変化するスピード」をウリにしました。
今ではこの「ネット出願」が出願数を大きく伸ばした要因となりましたが、開始当初は非常に苦労したそうです。
近大がネット出願を始めたのは2009年。始めた当初は全体の出願数の6%の方が利用してくれましたが、その後は伸びるどころか、どんどん減っていき、3%台にまで落ち込んだそうです。
「もっとネット出願を伸ばしたい!」なにかアピール方法はないかを考えた結果、ある戦略とネーミングを思いつきます。
それが「エコ出願」と「ネット出願による受験料の割引」でした。具体的には「ネット出願すれば、出願料を3000円割引く」という戦略です。
毎年、用意する願書のセット書類は13万部。それを積み上げると、なんと東京スカイツリー3本分の高さに匹敵するほど。そのうちの約3万部は使用されることなく廃棄されていました。
「ネット化すればムダがなくなる!」「エコロジーをアピールできる!」。研究や教育の一環として、地球環境保護に取り組んでいる大学としても紙の出願を減少させるべきだと考えたそうです。
結果として、「エコ出願」は大手新聞でも何度も取り上げられ、SNSで一気に拡散されました。
ネット出願率は「3.4%」から一気に「64.9%」まで急伸し、2014年には、紙の願書を全廃。「100%完全ネット出願」へと踏み切ることになりました。
そして完全ネット出願に踏み切った2014年、2500万円の経費削減効果を上げ、9000人の志望者を増やし、その出願数は日本一になりました。
志願者数日本一の理由その3.自ら「大学ブランド」を生み出す
近大の存在を世間に強くアピールしたのは「近大マグロ」でしょう。世界で初めて完全養殖を実現したという「近大マグロ」のニュースバリューは、近大の存在を日本中に知らしめました。
また、「近大マグロ」は、研究分野での実力を世界に向かって発信し、大学としての能力の高さを社会に浸透させていく力にもなりました。
JR大阪駅に隣接する「グランフロント大阪」にある養殖魚専門料理店があり、開店前から連日大行列が続いています。
店名は「近畿大学水産研究所」。オープン以降、テレビ各局がこぞって取材に入りました。
その後、すぐに話題店となり、開店から1年以上経過しても、未だに行列が途切れる気配はありません。
オープンした2013年の年間累計客数は12万5000人。当初見込みの9万人を大幅に上回り、売り上げの見込みの1.5倍となったそうです。ディナーの予約は1ヶ月先まで満杯で、2013年12月にオープンした東京・銀座の2号店も、同様に人気を集めています。
ニュースやバラエティ番組でも「近大マグロ」が繰り返し取り上げられ、度々マスコミを賑わせてきたので、「近大マグロ」についての話題を、何らかの形で目にした方は多いかと思います。
このグランフロント大阪や銀座コリドー街の「近畿大学水産研究所」は大学の研究所が、研究成果として”生産した養殖魚”を産学連携し、専門料理店で消費者に直接提供する営利事業をしている店です。大学としては、日本で初めての試みだといいます。
かつては「バンカラな大学」と言われていた近大も、メディアの影響力も重なり、今では「最先端の研究をしているすごい大学、人気の飲食店も出すユニークな大学というイメージ」という評判に変わりました。
志願者数日本一の理由その4.広告・広報は「選択と集中」
近大の大躍進には、「近大の広報戦略」が大きく影響しています。近大広報部は「志願者数が増えるかどうか」だけが、費用対効果の測定ポイントだといいます。
志望者が増えるということは、企業で言うなら売り上げを伸ばすことに通じており、一方で大学の評価を向上させることに繋がります。
2014年元旦に、新聞一面を使って、こんな広告が掲載されました。
「固定概念を、ぶっ壊す」
面白い広告は、「社会」とすぐに結びつき、話題になります。この広告がニュースとなって、何度も新聞やテレビにも取り上げられたそうです。
一度、話題になるとマスメディアだけではなく、ソーシャルメディアを通じて伝わるようにもなり、その連鎖反応によって「近大の知名度」を押し上げていきました。
その広告はどのように製作されたのでしょうか?近大広報部では広告を出稿するにあたって、常に心がけている三つの基本があるといいます。
①少々大学界の常識を逸脱したとしても、目立つ広告を出すこと。
(古くさい常識に縛られて、誰の目にもとまらない広告を出す「ムダ打ち」をしてはいけない)
②大学名を隠しても近畿大学の広告であるとわかるような広告にすること。
(「確かな未来が・・・」、「世界にはばたく・・・」といった、どこの大学でも使えそうなコピーは一切使わない)
③クリエイティブを代理店に丸投げしないこと。
(時間をかけて代理店の制作担当と打合せを重ねることにより、素晴らしいアイデアが生まれる)
※参照:「大学マネジメント」2014年5月『広告』と『広報』を活用した近畿大学の広報戦略
結果として、近大の広告はこれまでに「フジサンケイグループ広告大賞」「朝日広告賞」「毎日広告デザイン賞」「読売広告大賞」と、数々の賞を受賞しています。
一方で、近大広報部は「一撃の破壊力」が大きい広告だけではなく「プレスリリース」にも力を入れています。近大が1年間に作成したプレスリリースの数は、なんと233本(2013年4月〜2014年3月)。これは、他の大学と比較しても特出した数字です。
関西の有名大学である「関西大学」は60、「立命館大学」は87と、両校の約3倍の数にのぼるプレスリリースを配信しています。
必然的に、大手新聞(読売、朝日、毎日、日経、産経)にも掲載される数は多くなり、近大の名前を目に触れる回数が多ければ多いほど、知名度が向上していきます。
「強い拡散力をもつ広告」と「細かなプレスリリース」が、近大のイメージと知名度を底上げし、志望者数日本一の原動力となっています。
本記事で紹介した書籍「なぜ関西のローカル大学「近大」が、志願者数日本一になったのか」は「世界初のマグロの完全養殖」と「志願者数日本一」という二つの快挙を成し遂げた裏側を徹底的に解説している良本です。ビジネスのヒントがたくさん詰まった著者渾身のノンフィクションです。
著者:山下 柚実 (光文社)
Kindle版あり