「お・も・て・な・し」はスマホでできる?ITがこれからの飲食業に革命を起こす
著者:小林 俊雄 (自由国民社)
バイトでも3日で「先回りのサービス」ができる! 日本の伝統文化の心をITに組み込むと、世界の…
ITがおもてなしの救世主になる!?
飲食業界において、”おもてなし”がこれからますます重要になってくることは、飲食店の経営者にとって疑いようのないことです。しかし、現実の飲食業界は人手不足に悩まされているところが多く、「ブラックではないか」と糾弾されている企業も少なくありません。
現場で働く多くのスタッフは「注文をとって、間違いなくお出しする」だけで精一杯。どうしたら接客に余裕を持ち、”おもてなし”にも心を馳せるようになれるのでしょうか?
著者は「そのヒントはIT化にある」といいます。
飲食業界などサービス産業の生産性は、1990年以降、頭打ちの状態で改善されていません。しかも、多くの店舗では、的確な原因分析ができていないようにも見受けられます。日本のサービス産業が努力していないわけではなく、サービスのクオリティも悪くありません。しかし、残念ながら、数値上の生産性は上がっていないのです。
飲食業界がスタッフに過酷な労働を強いている背景には、この生産性の問題が横わたっています。そして、この根深い問題は「IT化の促進で改善される」と考えていると著者はいいます。
飲食店は日本全国で約70万件あるといわれていますが、ITを導入しているのはそのうち20%程度。それも「POS」や「オーダーリングシステム」といった月並みなITです。今後、飲食業をはじめとするサービス産業が生産性をあげていけるか否かのポイントは、「手の届くところにあるITを上手に活用できるかどうか」であると著者はいいます。
次は具体的にITの活用によって、「どのようなサービスが可能となるのか」について見ていきます。
スマホ・タブレットでもこれだけのサービスを実現できる
それでは具体的にITを活用することによって、飲食業のどこがどう変わるのでしょうか?
飲食業は、IT化によって、今までなかった新たな収益構造を作り出すことができます。
例えば、来店前にスマホから予約してもらえば、時間に合わせてテイクアウトをすることもできますし、店のレトルト食品を宅配便で全国に送ることも可能です。ITというと、「能率化」や「自動化」というイメージがあり、サービスとは無縁と思われがちですが、そうではありません。ITを活用することによって、サービスの質は1ランクも2ランクもアップしていきます。
さらにIT化によって、日本人が本来持っている「おもてなしの心」を大きく開花させることができます。
例えば、飲食店のIT化が進んだ場合、飲食店の予約は「トレタ(予約台帳アプリ)のようなWEB予約システム上ですべて完結」し、忙しい時間帯に電話応対で足を止められることはなくなります。常連客の場合は、その客の嗜好やよく頼むメニューを事前に把握することができるため、食材の確保や、新メニューの提案に繋げることも可能です。
お客様のことがわかっていれば、サービスの質は必然的に向上するもの。さらにお客様に喜んでもらえば、スタッフのモチベーションアップにも繋がるかもしれません。
IT化は生産性の向上ばかりか、スタッフの意識変革、おもてなし力のアップといった好循環をもたらします。
“飲食業界のブラック化”の容疑者はアベノミクス?!
アベノミクスによって、多少なりとも景気が良くなりました。安倍晋三首相が再就任して以来、株価は約6割上がっています。
※日経平均株価
その結果、人材を求める企業も多くなり、以前から不人気で人材不足だった飲食業界は、ますます人が集まらなくなっているようです。人材不足が高じれば、当然、飲食店で働く一人ひとりの負担は大きくなります。
さらに「2020年の東京オリンピック開催決定」も、人材不足に拍車をかけています。先行してインフラ整備が必要となると、建設、資材関連業界は人材が必要となります。そして、少しでも条件が良ければと、飲食業界から他業界へ人材が流出しているような状況です。
飲食業界というのは、「産業としての魅力がまだまだ乏しい」という言い方ができるかもしれません。
IT化によって飲食業界の人材不足も解消できる
先ほどの「産業としての魅力が乏しい」という理由として、飲食業界はブラック企業に多い「3K(きつい、汚い、危険)の職場である」などという悪評が広まったという原因が挙げられます。そのため、スタッフを採用するにも一苦労。アルバイトでも一人採用するまでに10万円ほど採用コストがかかるそうです。飲食業界にとって、人集めが”悩みの種”であることは間違いありません。
しかし、そのような飲食業界の大問題も「ITの導入であっさりと解消してしまう」という事例があります。
これは著者が代表を務める取引先である「焼き肉チェーン」の話です。この焼き肉チェーンは、今まで自社のホームページで人材募集をおこなってきましたが、ある時期から応募がピタリとなくなったそうです。
何か求職者に訴求できるポイントはないかと考えたところ、「タッチパネル式オーダーシステムの導入」を機に、試しに人材募集欄に「当チェーンは、タッチパネル式のオーダーシステムを導入しています」という一文をいれてみたそうです。
その結果、今までまったく応募者が来なかったホームページから、毎日平均して1〜2件の応募が増えたそうです。
「焼き肉チェーンのIT化」は、応募者に対してこんな訴求を行ったようです。
・直接オーダーを取ることによる顧客との「聞き間違い」などのトラブルを避けることができる
・タッチパネル式オーダーシステムを導入している店なら、ブラックではないという安心感
「タッチパネル式オーダーシステム」に代表される飲食店のIT化は、スタッフの労働量を軽減するとともに労働の質を高めます。店舗のIT化は、業務の効率化だけではなく、現場で働くスタッフの精神的負担をも軽減させることができます。
このように、人材確保という側面においても”店舗のIT化”は今後効果を発揮するのかもしれません。
東京でオリンピック開催までに、日本全国の飲食店のIT化が進むことを期待したいですね。
著者:小林 俊雄 (自由国民社)