池上彰が考える「優秀な学生」の定義とは – 池上彰のやさしい教養講座
著者:池上彰 (日本経済新聞出版社)
自分で学び続け、ものを考えていく。これが「教養」。最新ニュースから学ぶ、日本と世界の現代史。
あなたなら「国民総幸福」にどのような指標があると考えますか?
これから紹介するのは、池上彰さんが大学の講義で投げかけた設問のエピソードです。
ブータン王国は、小さな国ですが、GDP(国内総生産)に変わるGNH(Gross National Happiness、国民総幸福)というユニークな指標を提唱している国。
例えば、「地元の伝統的なお祭りに参加していますか」とか、「毎日、瞑想の時間を取っていますか」とか、「家族と一緒の時間がどれくらいありますか」など、様々な指標を基に、お金とは別の「幸福とは何か」について考えている国です。
池上彰さんは東京工業大学の講義の中で、学生に対して「幸福を指標にしようという取り組みがある国」を紹介した後、リポートを提出させたそうです。
その設問の内容とは以下の通り。
「GNHはあくまでもブータンにおける指標である。もしこれを現代の日本に適用した場合、国民総幸福を算出するとすれば、どのような指標が考えられるか、具体的に考えて書きなさい」
あなたなら、日本で適用した場合、どんな指標が考えられると思いますか?
池上彰氏「正しいことを批判してみる」
このレポートに対して、池上彰さんが期待していた内容は、
「幸福とはきわめて主観的な概念である。一人ひとり幸福とは違うはずだ。それを客観的な指標として出すことは、そもそもナンセンスで、設問自体が成り立たない。」
こういう答えを書く学生がいることを楽しみにしていたそうです。
ところが現代の学生たちは非常に真面目。2人の学生だけ問題設定に疑問を呈したそうですが、それ以外の学生は問題設定の枠の中で、ひたすら「こんな指標があります」ということを延々と書き上げたそうです。
池上彰氏が考える「優秀な学生」とは
その時、池上彰さんは”あること”に気がついたそうです。
「今の日本の教育システムの中で、いわゆる偏差値エリートや優秀とされたりする学生は、あらかじめ与えられた問題設定を所与の条件として、正解を出そうとしている。」
さらに、「問題には必ず答えがある。だから、問題文をよく読み、主題者が狙っている正しい答えを導き出すという訓練をずっと繰り返してきたのでは?」ということに。
これはある種、日本社会的な空気を読むという姿勢と似ています。出題者の空気を読んで、一番求められている答えを出すというわけです。
社会の中では、まだまだ少数派の理論はたくさんあるもの。大学の講義を聞いていて、それが正しいことなのだと思っていても、社会に出ると、とんでもないことがいくらでもあります。大学では、その部分も含めて学び取らなければなりません。
・先生はこう言っているけれども、本当なのだろうか?
・そもそも所与の条件が成り立つかどうか?
「このような疑問を持ち、自ら検証する力を身に付けていくことが、大学において求められていること」だと言われています。
池上彰氏「学び続ける力」を学ぶ
昔からよく、「無知の知」ということを言います。自分はいかにものを知らないか”ということを知ること。これが実はとても大事だと池上彰さんは言います。
現代における教養というのは、いろんな情報があふれている中で、自分はいかにものを知らないのかということをまず知ること。それは、まさに己を知ることです。
そのうえで、「知らないことをどうやって勉強していこうか」と自分で考えること。これがとても大切だと考えれば、大学における教養教育というのは、知識を伝達するだけでは駄目なのではないかと考えているそうです。
つまり、「様々な知識をまず伝達し、今度はその知識を基に自分なりに考えてもらう。自分の頭で考える力をまず身に付けてもらう」ことが重要であるということ。
そして、池上さんはこうのような確信を持つことが大事だと言われています。
「人間は学び続ける限り、生きている限り、成長し続けることができるのだ。」
著者:池上彰 (日本経済新聞出版社)